人の気持ちは泡沫に消ゆ

こうしてタイトルを考える間にも時間は過ぎる。

体の細胞はどんどん入れ替わり、身近な未来がどんどん『今』になる。

そうだ、私たちは何時までも同じところで立ち止まることができない。

変わらず好きだというこの気持ちも、少しも変わらず保つことは難しい。大体、人の気持ちは募るか冷めるか、だ。想いが重なることは素敵なことのようだけれど、雪だるまのように膨らんだ心は純粋な気持ちを真綿で締めるようにカサが増して重いものになる。

何事も適量適度が大切、なのに。

あの時もそうだった。

女子校時代に親しくしていた美術部の後輩は、私を頼っていてくれていた。好きな音楽の話や最近よんだ小説、自分が描こうとしている絵の話、そしてこじらせた家族関係を語り合って、語り尽くすほどに四六時中一緒にいた。

共に失うのが怖いと手を取り合っていたのに、ある時、彼女は自分が失くなるようで怖いと呟いた。

聞き間違いだと思うことにして返事をしなかった。しかし、私が高校を卒業すると共にパタリと連絡が途絶えた。

二人しかいなかった筈の世界に、一人で放り投げられたものだから混乱した。

私たちは互いを必要とし離れがたく、他の何物にも代え難いと語り合っていたではないか。

寧ろ、卒業の時が近づくのを恐れて泣いていたではないか、それを何故?

混乱し憤り、泣いては後悔し、度々、手紙を書いた。でもずっと返事がくることは無かった。

後輩から連絡がきたのは、それより4年後。彼女が社会人になってからだ。電話が鳴り、ランチに行こうと誘われた。何を突然にと思ったけれど、断る理由は無かった。

彼女は他愛もない話をして一人で笑っていた。美大時代の話や、デザイナーとしての野望を語っていた。

しかし、彼女は美しい人だったので、早々と結婚したいとも早口で語った。一息ついたところで、私は彼女にたずねた。どうして今の今まで連絡をくれなかったの?と。

「忙しかったから。もう十代の頃の気持ちなんて忘れたよ。それよりもキミ変わってないね。相変わらずの話し振りで面白い」

私の中で何かが壊れた。年月をかけた分、自己愛と共に重なり膨らんだ想い出が儚く砕けた。 無邪気に語り合った二人はもういない。 そこにいたのは過去を否定する女と過去にすがる女。 白い歯を見せ合って笑い合った時間と共に泡沫に消えた。