儚いまぼろし

「ね、楽しいね!」
「うん、すっごく楽しい」
「こんな素敵なものに出会えると思ってなかった」
「わかる!すっごく嬉しいよね!」
「だいじにしようね」
「うん、しようね」

 

私たちは殆ど同じ時期に習い事を始めた。

 

彼氏と別れ結婚適齢期が過ぎ、友人を作ることも難しい年齢に差し掛かっていた。
結婚するつもりで契約社員になったが、人に紹介された映像の現場は想像以上にハードでただただ時間に追われるような日々を過ごしていた。


見かねた母の勧めで始めた私は、そこで友人と言える人と出会った。

今まで全く何も体を動かしたことがない…という彼女に、先生のいうアドバイスの解説をしながら一緒にゴハンを食べるのが楽しかった。

「肩甲骨を使えって言われたけれど、どういう意味か分からなくて」
「天使の羽って言われてたりするんだけど、背中のね、肩関節に連動した、ほらココ」
「こんなところ、動かそうと思ったことない!」
そんな会話をしていた私たちは、誰がカッコイイなどといってミーハーな話をしてはキャッキャと騒ぐのも楽しみの一つだった。
仕事以外で人と出会うことが少ない私にはとてもかけがえのない大事な時間。
あぁこういうのって女子っぽいのかも知れない、とほくそ笑んだり。

けれど、それは気楽な話だけで済まなくなっていた。
秘密にしなくてはいけない出来事が友人に起きた。
私たちは秘密に有頂天になった。


秘密は毒だった。もたらす蜜月は長くは続かない道理だ。
壊れていく彼女を私は窘めるようになった。それどころか離れた方がいいといった。
秘密が破たんした途端、彼女からの連絡が途絶えた。

どうして、楽しかった時間が消えた時、急に目の前の色が消えてみえるんだろう。
視界はグレーだった。同じことをしていても砂をかむような思いだった。
皆んな、何時も通りに楽しそうに過ごしているけれど、彼女はそこにはいない。
引き潮の中で一人打ちひしがれる日々。

 

数か月ほどして彼女が戻ってきたときは、泣いて再会を喜んだ。

 

でも、こじれた環境の人間関係は私たちに徐々に歪みをもたらした。
私は許せなかった。彼女を追い詰めた人が何事もないように過ごそうとすることを。
我慢できなかった。彼女を利用しようとしていること、それを拒否しない彼女のことを。


身の置く場所が離れたら少しは状況が変わるだろうか。私の気持ちが収まれば元通りになるかもしれない。そんな想いで環境を変えた途端に彼女とその周辺の人達と付き合いが切れた。
連絡をしても色んな理由で会わない言い訳が返ってきた。

巷では色んな誤解や噂が流れていると、わざわざ耳に入れてくる人もいる。
私の気持ちをさらに重くさせた。もう無理だ。

 

だってかつて皆んなで楽しくお茶をしていたドーナツ屋さんで彼女と出くわした時、
まるで透明人間みたいに目の前を通り過ぎていったの、私、気づいちゃった。
今まで、私が収まっていた席に彼女は座り、楽しそうに談笑してたの見ちゃった。


これは大切だったものを大事にしなかった罰。
キラキラと輝く陽炎を偽りだと罵った罪。

 

私、裏切り者って言われてるんだって。


幻でも楽園を否定しちゃいけなかったんだね。
「王様の耳はロバの耳」
穴ぐらにそう叫びながら笑ってすごしていれば良かったのかな。

泡沫に消えて答えが見えないよ。