刹那

体が重い。

レッスンが始まって、
さぁこれから踊りますよと
手を繋いだ瞬間にはもう気付かれてしまう。
ツボを軽く押されただけで激痛になる。

「これは…腫れてるでしょ」


私は、かなり諦めていた。
踊るために体をつくることも、
空いた時間に練習してステップを覚えることも、
疲れてしまって放り出そうとしていた。
仕事の時間との調整がここ数年、本当に難しくなっていたし、
両立させようと頑張ると、決まって過労な状態になり、
色んな場面でミスを連発する。

健康や仕事が一番と手を抜き始めたら、
坂を転がり落ちるように体はどんどん動かなくなってきた。


レッスンの次の日は筋肉痛と頭痛に襲われる。
もともと状態の悪い首は相変わらずムチウチのような具合で、
不調のときは首にタオルを巻いて固定した方がいいと
鍼灸の先生からすすめられた。

これ以上に悪くならないようにするので精一杯で、
踊りの質をあげるためにメンテナンスするという域には到達していない。
左足首にハンデもあって普通に踊ることさえ難しい。


それに。
別に、今となっては、誰も私が踊ることを喜んで待っている人もいない。
何の為に踊っているのか分からなくなった。
誰に頼まれたものでもなく、自分が好きで踊っているだけなのだし、
もっと気楽に楽しく踊れたらいいものを
「なんで踊ってるんだろう」という気持ちが日増しに強くなっている。

モチベーションが日々落ちていることは、
当然、先生にも伝わっていた。
わざわざ話して伝えることは何もしないけれど、
指導の内容や、先生のリードの程度で分かる。

本当になんで踊ってるんだろう。
レッスン中に思ったその時。

「ほら、鏡の前にきて」

そういって基本の体の動きを始める先生。
まったく同じ形にはなりはしないけれど、
かろうじて真似をしようという気負いで動く。

「ね、そうやって踊ればいいんだよ」

再び音楽をかけて、無様な格好で、
重く動かない体をどうにか使って踊った。
おもしのように重すぎて、一足一動、吠えるような想い。
体の奥の奥から動かそうとすると、
腹の底から何かが一緒に蠢き、息を吐くと同時に飛び出してくる。

今、私は確かに生きていて、何かを感じてここにいる。

重くてたまらなくて、ボロぞうきんになったみたい。
足にまとわりつく水を含んだ布を引きずるようだ。
目頭が熱くなって叫びたいほど。

悔しいくやしい……悔しい!!


みっともない体をひきずりながら、
それでも、私はまだ、あきらめてはいなかった。