溶かしてくれたもの

物心ついた時には弟がいた。
年が一つしか違わないので小学校の低学年まで
何時も一緒に遊んでいた。

ヒーロー物が大好きだった弟と
年度替わりごとにニューヒーローのデザインやネーミング、
主題歌の善し悪しを語り合うのが楽しみの一つだった。

「年々デザインがイマイチだよね」
「そろそろネタギレなんじゃない?」
「グッとくるものないよね」

そんなような会話をする小学生も微妙かもしれない。

「人の細胞が宇宙に例えられるとしたらさー、ひょとしたらひょっとしてだけど、
 自分の中にも星があって、無数に何かの生命がひそんでるかもしれないよね?」
「宇宙の端にいったことがないってことは、そのもっと大きな存在が
 更に何かの生き物だっていう可能性も秘めてるよね」

子どもじみたファンタジーの話をするのが好きだった。

そんなに仲が良かったのに、
思春期の特有の面倒臭さから距離が離れた。
年数が流れ住むところを長く離れるうちに溝は深まった。
そこに加えて去年、弟と両親とで大ゲンカ。


これ以上ないくらいすれ違って、誤解の種も大きくなって、
近頃では一切なにも連絡してくれない。地震が起きても、大雨が降っても、だ。

もう、このままでは家族という繋がりが途絶えてしまう、
家族としていられなくなる、そんな気持ちでいっぱいになる。
誰に話せる訳でもなく絶望的な気持ちで、こっそり泣くことしかできない日々。

でも根はいい子なのだ。優しくて温かい子なのだ。
だって小さい時から一緒だったから分かるもん。
ちょっと意固地になってるだけで、本当はいろいろ想ってくれてる。
口がちょっと上手じゃないだけ。

両親に分かってもらえなくって歯がゆかった。
弟に本意が伝わらなくって悔しかった。

だから今回、久し振りに皆んなが揃うことは、
楽しみでもあり不安でもあった。

心配は杞憂に終わった。
小さな子どもが2人もいると、
余計なややこしい話をしなくても良かった。
皆んな自然と笑みになる。
直観的に何が大事で何が喜ぶのかを考えて行動すればいい。
終始、優しい空気を子ども達は振りまいて、
弟家族たちは平穏に自宅へと帰って行った。

子どもの頃に連れて行ってもらった水族館に、
小さい子を連れていった時、弟と二人で懐かしく語ったのは、
両親に大事にされ可愛がってもらった確かな記憶。

人は時に頑なになると、
大事なことまで忘れてしまうのかも知れない。

優しかった父と母、笑いあって無邪気に過ごした遠い日々。

幸せな記憶は、固く閉ざしていた弟の気持ちも、
あたたかく溶かしてくれたのかも知れない。

久し振りに弟からLINEの通知が届く。

楽しそうに笑う甥っ子と姪っ子が
私たち姉弟と重なった。