蟻の行列

黒い点が蠢いていた。

祖母の花畑が大好きだった。
覚えているのは桜の木と苺とボウフラのわいた溜め水、
そしてたくさんの蟻たち。

何処からかやってきて、いくつかの種類が入り乱れながらも、
四方八方に列を連ねる。

少し舐めたドロップを地面に置いて、
次々に集まる様をみるのが好きだったが、
そのうち、ふと虫の死骸を置くことを思いついた。

こうすると小さな欠片をもった蟻たちを追えば、
巣穴にたどり着くことができる。

大きな獲物を一生懸命運んだ先には、
砂や土でこんもりとした膨らみがある。
ぽっかり空いた穴からせわしなく出入りするのを見届けると、
巣穴を掘り起こす勢いでスコップでえぐる。
蟻たちがパニックを起こして右往左往になり何もできずにいるのを、
ただただ眺めているのが楽しみだった。

振り返れば何て暗い子なんだろうと自分でも思うのだけれど、
ガーデニングが趣味の両親から蟻の巣の駆除を頼まれる度に、
あの時の経験が役立っていることを実感する。

昨日もそうだった。
まず虫の死骸を黒い列の中に置いた。
小さな羽虫の羽を持った蟻は動く度にきらきらと反射するので
しゃがまなくても目で追いやすい。

「こんな大きな手柄を巣に持ち帰ったら英雄だよね」
「途中で落とさなきゃ、だけどね」

しかし、その蟻は行く先を見失ったかのように、
大きな円のコースをゆっくり周るようになった。
体の大きさに対して羽が大きすぎるのかも知れない。
どうしたものかと思っていると、蟻を見失ってしまった。
どうやら羽を落としてしまったらしい。

「手柄を落としたら他の蟻と見分けがつかないね」
「困ったね」
「いいよ、代わりなんてたくさんいるんだから」

そうだ。
代わりなんてたくさんいるんだ。
学生時代、蟻のように行列になって登校していたことを思い出した。
マンモス校だったし付属の中学もあったから、
3千人もの少女たちが20分ほどの道をぞろぞろと歩いていたっけ。

「巣みつけたからいいや、ここ駆除しよう」

さっさと駆除剤をまくと、途端に土の中から蟻たちがワラワラと溢れ出てきた。
相当なパニック状態だ。巣を壊される比ではないのは見て分かる。
神経系に支障をきたしている蟻や、体の構造に異変の生じている蟻もいる。
そこを更に掘り返して女王蟻に辿りつき、すべてシャベルで処理をした。

この中に、さっきまで手柄を運んでいた蟻も紛れていたのかな、
そんなことを、ふと思う。

懸命に働いて女王蟻の為に無理して手柄を立てるもかなわず、
そうして何もなしえないまま、どうにも抗えないものに命を奪われる。

ふだん、少しも気にもしないで駆除していたのに、
ほんの一瞬、罪の意識に囚われた。

蟻に情なんてないのだから、
自分と重ねるようなことはしてはいけない。
そう言い聞かせながらも、きらきら光る羽の欠片のことを
簡単に忘れることができなかった。