スイッチひとつで

幼少の頃、下町のようなところで育った。
子どもは皆な、男の子も女の子も関係なく
365日ずっと制服のようにジャージで過ごすような田舎。


弟もいたので物心ついた頃から、
男の子と同じアニメやマンガをみたり、
ヒーローごっこで遊ぶことに何ら違和感もなかった。

 

ままごとをすることもあった。リカちゃん人形も持っていた。
けれども超合金のロボットも好きだった。
どちらにも違和感なく触れていたし、どちらも大事だった。
自分が何者かなんて、もちろん深く考える事もない。
可愛いものも格好良いものも好きだった。ただそれだけだった。

 

私たち田舎に住む少女たちの第一通過儀礼は「中学生」になること。
ジャージしか着てこなかった私たちを待ち受けていたのは
セーラー服と黒いパンストだったからだ。

入学式をみぞれが降るような寒い春に迎える。
黒いパンストは冬に着用する学校指定だった。
卒業を間近に控えた私たちは制服姿になりたくないと嘯いていた。
憧れと恥ずかしさが同居して、期待と不安が入り交じっている照れ隠しだった。

今でも初めて黒いパンストに脚を通した時のことを覚えている。
ひんやりとした妙な寒々しさを感じながら脚を通す私は緊張していた。
子どもだった筈の私の脚が見る見るうちに大人の脚のように変わった。
「私の脚もこんな風になるんだ…」
人に見られたくないような恥ずかしさもあったが、
同時に大人になることへの高揚感もあった。

 

 

でもそれは鏡を見るまでの話。
自分の姿を見て失望した。
そこにうつっていたのは
ショートヘアの少年のセーラー服姿だった。

 

 

女の子は皆んな可愛いなんて嘘だった。そう思った。
私の頬は少年のようにシャープだったし、胸を除いては女子らしい丸みもなかった。
だのに目の周りには脂肪が多くて三日月のようだったし、睫毛も薄かった。
男の子だったら良かったのに。そうはっきり思った。
周りにいる大勢の男の子より私の方が背が高かったし、
きっとそこら辺の子より詰め襟を格好よく着こなせただろう。

 

でも私はセーラー服を着なくてはいけない。
似合っていなくても、だ。

 

やはり、私は母のようには美しくなれないのだ、
そう思うと絶望的な想いだった。
近所の人が気を遣って「お母さんに似て綺麗ね」と言ってくれたけれど、
母が眉をひそめたのを目にしてしまった。

 

何かを間違えて生まれてきちゃったのかな。

 

今、この瞬間にスイッチ一つで変えられたら良かったのに。
そう思った。思ってしまった。
でも変えるべきは何だろう。

 

体の構造なのか、造形なのか、それとも他の何か…
考えてみたところで、ぼんやりと生きてきた子どもの私には、
何の糸口も見えなかった。